荷主企業の物流業務改革

かつて「物流は第3の利潤源」と言われた時期(1970年頃、早稲田大 学の西澤脩教授(当時)が唱えた)がありましたが、今や利潤源であるだけに留まらず「物流は競争力の源泉」でもあります。Amazon、花王をはじめ、物流を武器にしている企業は数多くあります。

このページでは、一般的な荷主企業における物流業務の実態、問題と対応の方向性、業務改革推進上のポイント、物流情報システムについて記載します。

荷主企業における物流の実態

JILS(公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会)の調べによると、「2016年度の物流コスト調査における売上高物流コスト比率(全業種)の平均値は4.97%」とあります。

売上高物流コスト比率が5%だとすると、売上高10億円の企業であれば物流コストは約5千万円です。物流コストを10%削減できれば、5百万円の利益を生み出すことがえできます。営業利益率5.0%の企業が5百万円の営業利益を生み出すには、1億円の売上が必要となります。つまり、10%の物流コストダウンの取組みは1億円の売上アップの取組みと同等の価値があるということです。

問題と対応の方向性

同じく、JILSの調査によると「2016年に実施した物流コスト削減策」は多い順に「在庫削減」「積載率の向上(混載化、帰り便の利用、コンテナラウンドユースなど)」「保管の効率化」「物流拠点の見直し」「輸配送路線の見直し」とあります。この傾向は長いこと変わりません。

物流コストの削減策は次の3つに分類されます。すなわち「在庫削減」「輸配送コストの削減」「物流センターコストの削減」です。

在庫削減

「物流コスト削減」と言えば「在庫削減」というくらいに、メジャーなコスト削減策です。実際のところ在庫削減による物流コスト削減効果は大きなものがあります。

在庫削減による物流コストの効果

無駄な在庫が無くなれば当然、その分の保管スペースが不要となります(保管料の削減)。これに伴い無駄な物流活動、つまり横持ちや返品などに伴う入荷、入庫、保管、出庫、出荷が不要となります(人件費の削減)。

更に、キャッシュフロー改善(仮に在庫を借入で賄っているとした場合、その分の支払利息が減少します)や在庫リスク低減(汚破損や陳腐化による在庫価値の毀損を低減)効果もあります。

「無駄な在庫が無くなる」ということは「適切な場所に適切な量だけ在庫がある」ということですから「機会損失」を少なくすることにもなります。

「在庫削減」は重要なテーマですが、在庫といえば物流部門の責任とばかり「在庫削減」を物流部門に(だけ)命じてしまうケースは珍しくありません。通常、物流部門には「在庫量」を増減する権限はないはずです。在庫量を決定するのは製造部門や営業部門です。物流部門は製造部門や営業部門のが決めた在庫を管理しているだけです。

物流コスト=物流量(≒在庫量)×単価

となりますから、物流部門にできるのは如何に(物流作業にかかる)単価を抑えるか?という事になります。物流単価を抑えるとは物流作業を効率化するということに他なりません。これはこれで重要な活動なのですが「在庫削減」にはなりません。

在庫削減は、物流、製造、営業部門が連携して取り組むべきものです。

在庫削減の取り組みとは、すなわち在庫管理を徹底することです。組織として公になった在庫管理ルールがなかったりそもそも在庫日数すら把握していないケースは多々あります。

在庫削減に向けた基本的なステップ

はじめに自社の在庫状況を正しく把握します。在庫状況とはすなわち、「在庫日数」「在庫維持コスト(=保管料+荷役費+支払利息)」「発注コスト」です。

次に、売れ行きに合わせた(ABCランクに応じた)発注方式となっているか確認します。たとえばAランクなら定期不定量発注、Bランクなら定量不定期発注、Cランクならダブルビン法式などが採用されます。

発注方式の”中身”に着目します。例えば定期不定量発注とは、定期的に予測を行いその時の状況に応じて必要な量を発注する方法ですが、予測を行うタイミングは月に1回とすべき週に1回とすべきかは商品によって異なります。また販売予測数量や安全在庫基準についても見直す余地があると思います。設定時は妥当な数値であっても売行きなどの事情が異なれば値も変わってきます。

取引先との条件を見直します。納入リードタイムや納入ロット、発注サイクル(月に1回の発注とするか週に1回の注文とするかなど)を見直します。

以上は企業単独の視点での在庫削減(在庫最適化)です。次の段階でサプライチェーン全体での最適化を目指すことになります。

輸配送コストの削減

物流コストの大半(50%~60%程度)は輸配送コストと言われています。その輸配送コストの主な内訳は、車両費、人件費、運行三費(燃料費、タイヤ費、修繕費)です。ざっくり言えば、車両費と人件費(の一部)は固定費(スポット手配した車両や残業手当は変動費相当)です。運行三費は変動費です。

車両費、人件費は固定費ですから、荷物があろうがなかろうが発生する費用です。可能な限り多くの荷物を運んだほうが効率的であり、相対的に物流コストを低減することになります。つまり、実車率、積載率、稼働率(3つまとめて運行効率、別名、3率と言います)の向上が輸配送コストの削減のポイントのひとつとなります。

輸配送業務をアウトソースしている場合は、その契約形態によって多少事情が異なります。例えば個建運賃契約(1個あたりいくら、トンキロあたりいくら等)であれば、運行効率の向上が直接的に物流コストを削減するわけではありません。運行効率の向上を経て、個建運賃単価を下げなければ物流業務効率化のメリット(物流コスト削減)を得ることはできません。

荷主企業とアウトソース先である物流企業とが協力して物流業務の効率化をはかり、そのメリットを配分する(荷主企業にとっては下払い運賃の低減、物流企業にとってはコスト削減による利益向上)仕組みが必要ですが、話はそう簡単ではありません。

これからの物流は、納品条件の見直し、荷主企業間の連携、更なるIT活用がキーワードとなります。

物流センターコストの削減

物流センターのコストとは、保管コスト、荷役コスト、及び物流情報コスト(オーダー処理コスト等)です。保管コスト、荷役コストは在庫を削減することでも効果はありますが、他にも保管の仕方(ロケーションなど)、ピッキングの仕方を工夫することで削減することもできます。

「輸配送コストの削減」で記載したように、物流業務をアウトソースしている場合は物流企業と協力してコストダウンに取り組みことになりますが、物流企業は既にコストダウンに取り組んでいる事が多く、上述したようなロケーションやピッキングの工夫ではその効果が限定的であることもあります。

物流企業だけではどうしようもない部分に、受注締切時間やリードタイム、出荷頻度、ロットサイズなどの物流サービスレベルがあります。物流サービスレベルを見直すだけで物流コストを削減する余地が大きくなることがあります。

物流施策キーワード

実車率の向上

実車率=実車走行時間÷稼働時間×100

稼働時間には実車走行時間のほかに、空車走行時間、積込時間、荷卸時間、待機時間、荷待時間、休憩時間、その他付帯作業時間が含まれます。実車率の向上は(休憩時間は別として)実車走行時間以外の時間をどれだけ短くできるかにかかっています。実車走行時間以外の時間を短くするための施策として以下の取り組みテーマがあげられます。

  • 検品レス・・・RFIDやバーコードを用いて納品時の検品をなくすことで荷卸時間の短縮が図れます。
  • ユニットロード,スワップボディーコンテナ…積込時間、荷卸時間の短縮が図れます。
  • バース予約システム・・・荷待時間の短縮が期待できます。
  • 中継輸送…運行経路上で別のトラックと荷物を入れ替えることで復路も実車状態で走行します。ドライバーも日帰りが可能となります。

積載率の向上

積載率=積載量÷最大積載量×100 (重量 or 容量)

出発時点でどれだけの荷物を積んでいるかがポイントとなります。積載率が50~60%というトラックも珍しくないと思います。積載率が60%なら残りの40%は空気を運んでいることになります。これは大変もったいないことです。かといって荷物が満載になるまで待っていると納品時間に間に合わない…ということになってしまいます。積載率向上のポイントは荷物量、納品条件です。

  • 求貨求車システム…うまくマッチングできれば積載量の向上が期待できます。
  • 共同配送…荷主間の連携、あるいは運送事業者間の連携により、輸送需要の波動を吸収します。
  • 納品条件(前倒納品,翌々日納品,発注ロット)…納品条件を見直すことで積載率の向上が期待できます。

稼働率の向上

稼働率=稼働時間÷車両実在時間×100

トラックは荷物を運んで”なんぼ”です。車庫で眠っていては何にもなりません。稼働するには荷物とドライバーが必要です。将来的に自動走行が実用化されればドライバー問題が緩和され、ドライバー不足がネックとなった稼働時間不足は解消されるかもしれません。

その他のITキーワード

IoT,BD,AI,ロボット,ドローン

物流業務改革による競争力強化

冒頭に記載の通り、「物流」といえば効率化とコストダウンの対象でした。しかしこれからは物流を武器に企業競争力を強化する時代です。

Amazonが物流を武器としているのは周知の事実です。コンビニエンスストアの物流も有名です。限られた店舗面積を最大限有効に活用し、利便性を売りとするために多頻度小口配送を実現しています。多頻度小口配送を実現するために同一温度帯の商品を共同配送し、またそのためにメーカー、ベンダーには物流センターに納入してもらっています。

製造業ではトヨタ自動車のJIT(ジャストインタイム)物流が有名です。徹底的に無駄を排除することでローコストオペレーションを実現しています。デルのBTO(Built to Order)も、他コンピュータメーカ―とは異なるデカッブリングポイントの設定と物流体制の構築におり実現できた競争戦略です。

とはいえ・・・Amazonの物流については、過去には佐川急便の撤退問題、後を受け継いだヤマト運輸による運賃値上げなどが話題になりました。小売業による物流センター運営にはセンターフィー問題があり、JITには「協力企業にしわ寄せがいっているだけ」という批判もあります。しかし、これらの企業が物流で差別化を図っているのも事実です。

現代はこれまで以上にモノ(マテリアル、プロダクト)そのものによる差別化が難しく、多くの企業が物流業務改革に取り組み、精度の高い納期回答配送状況の回答の実現、納品リードタイムの短縮を図るなどして顧客サービスを充実し、他社との差別化を図っています。

業務改革推進上のポイント

現状把握から始め、あるべき姿の設定、問題・課題の抽出、施策(業務施策とIT施策)の設定・・・と進めます。

物流業務改革の中心部門は物流部門ですが、上の「在庫削減」でも記載しました通り、物流業務改革を物流部門だけで行うには限界があります。経営トップの強いリーダーシップのもと、物流、製造、営業が連携して進める必要があります。具体的にはプロジェクトチームを組み、予算と権限を与えて進めるのが最良の方法だと考えます。

物流情報システム

物流関連システムは、大きく次の3つに分類されます。

  • LMS(Logistics Management System)
  • TMS(Transport Management System)
  • WMS(Warehouse Management System)

LMSには、物流管理システム(物流KPI測定、状況モニタリング)、物流費計算システム、TMSには、運行管理システム(デジタコ、ドラレコ等)、配送計画システム、WMSには、在庫管理システム、レイバースケジュール計画システムが含まれます。

他にはマテハンとマテハンをコントロールするシステム(WCS)や需要予測システムなどがあります。製造業であればERPの一機能として在庫管理機能があり、生産計画等と連動して動作します。中にはクラウドサービス(SaaS)として提供しているシステムもあります。

このように、ひとくちに物流情報システムといっても様々です。世の中にどのような情報システムがあるかは知っておくべきです。

情報システムなしに競争力のある業務を構築することはできませんが、情報システムの構築そのものが目的とならぬよう留意しなければなりません。