発想力、構想力が試されるフェーズである。また、もっとも楽しくもっとも困難なフェーズでもある。前提を疑い、制約条件を取り払い、またITを徹底活用するつもりで業務とシステムをデザインしなければならない。他社事例や先行事例を十分に調査しつつ検討すべきである。
理想の姿を描く
理想の姿とは
システム企画の最初のプロセス「現状を可視化する」において「企業の概要」を確認した。そこでとりあげた内容は以下のようなものである。
企業の概要(再掲)
- ミッション・ビジョン・バリュー
- 組織体制(体制図、職務分掌)
- 経営資源(拠点数、車両数)
- 主要取引先(販売先、仕入先、協力企業)
- 事業概要(ビジネスモデル、ビジネスプロセス、商流、物流、情報流)
- 業績推移
- 財務状況
これらの「企業の概要」がどのような姿・状態になれば「理想の姿」になったといえるのか?に答えることが「理想の姿を描く」ということである。
以下「理想の姿」を考える上で特に重要な点、すなわち、「戦略とビジネスモデル」「ビジネスプロセスとIT(情報システム)」「組織体制と役割分担」について触れておきたい。
戦略とビジネスモデル
戦略って何?ビジネスモデルって何?戦略とビジネスモデルって何がどう違うの?と思う方も多いと思う。ここで、ビジネスモデル(と、ついでにビジネスシステム、ビジネスプロセス)と戦略について私の考える定義を示しておこう。
- 戦略=資源配分の方針
- ビジネスモデル=ビジネスの設計図
- ビジネスシステム=設計図を実体化したもの
- ビジネスプロセス=需要から供給までのサイクル(ディマンドチェーン→エンジニアリングチェーン→サプライチェーンの全体)
学術的には詳細な定義が必要になるだろうが、実務的にはこれくらいの理解で十分だと思っているが、念のため戦略について少し補足しておく。
戦略に関する補足説明
戦略についてはポーター派(ポジショニング派)かバーニー派(リソース・ベースト・ビュー)かで論争があった(ある)。
ポジショニング派の考え方は「業績は選択した業界で決まる」というもので、要するに「勝ち馬に乗れ」ということだ。リソース・ベースト・ビューの考え方は「業績は企業の持つ資源や能力で決まる」というもの。一時期流行った「コア・コンピタンス」はリソース・ベースト・ビューの考え方に属するものだ。
とある研究によると、業績の15%は業界選択で説明でき、45%は企業の能力や営業チャネルなどの内部資源で説明できるそうだ。ちなみち残りの40%は不確実性、要するに「運」で決まると。
先に挙げた私の示す戦略の定義、すなわち「戦略=資源配分の方針」はリソース・ベースト・ビューの考え方に近いと思うが、だからといって業界選択の重要さを無視しているわけではない。
しかし、現実問題として業界選択を行う機会はわずかだし、選択できる業界も自ずと限られてくる。実務的には「既に選択した業界でどうにかこうにかやっていくしかない」のである。どうにかこうにかやっていく上で中核となるものこそ「戦略」であり、それはすなわち「今ある経営資源をどう使うか(配分するか)?に関する意思決定」であると考えている。
ビジネスプロセスとIT(情報システム)
現代のビジネスはITとの相互作用で成り立っており、もはやITなしでのビジネスは考えられない。但し、ITとの関わり合い方は企業によってかなり異なる。相対的に大手企業のほうがITへの関与度が高く、中小・零細企業は低い。またこのことがIT経験値の差となり、ITリテラシー(IT能力)の格差を拡大することになる。
ビジネスとITの相互作用により事業効率を高めるためにはビジネスプロセスの設計が欠かせない。先にも書いたが、ビジネスプロセスとは「需要から供給までのサイクル」であり、これは「様々な機能の連なり」で構成されている。ビジネスプロセスの設計とは、機能と機能の連なりを明らかにすることである。この時、ITとの相互作用を考えながら、より効率的・効果的なビジネスプロセスを設計しなければならない。
尚、システム企画立案という取り組みの狙いはビジネスとITの相互作用を高めることにあるが、同時にITリテラシーの向上を図ることにもある。
組織体制と役割分担
ビジネスプロセスと同時に検討すべきは「組織体制と役割分担」である。理想の姿として設定したビジネスプロセスは誰が担うべきか?を明らかにする。この時、必要であれば新組織の編成や外部組織との連携(アウトソーシング)も視野に入れて検討する。
尚、当然であるが、戦略、ビジネスモデル、ビジネスシステム、ビジネスプロセス、情報システム、組織体制と役割分担は、すべて整合しなければならない。