ビジネスモデルと事業戦略

ビジネスモデルと事業戦略の違い

システムコンサルティングに取り掛かる際、最初に考えることのひとつは「どういうビジネスモデルになっているのだろう?」であり、次に考えるのは「どういう事業戦略をとっているのだろう?」です。

この問いに答えるためには、まず「ビジネスモデル」「ビジネシシステム」および「事業戦略」についての定義付けが必要となります。「ビジネスモデル」と「事業戦略」は混同されがちですが、もちろん違います。私は以下のように定義付けしています。

「ビジネスモデル」とは利益を上げる仕組みを表す設計図です。そのビジネスモデルを具現化した実際の仕組みが「ビジネスシステム」です。そして、そのビジネスモデルとビジネスシステムで競合に打ち勝ち、長期に渡って利益を上げ続けるためのポジショニングと資源配分が「事業戦略」です。

ビジネスモデル 利益を上げる仕組み・設計図
ビジネスシステム 利益を上げる仕組み・実際の仕組み
事業戦略 利益を上げ続けるためのポジショニングと資源配分

1.ビジネスモデルについて

ビジネスモデルを知ることで、どうやって利益をあげているか、つまり何をやっている組織か(例.モノを作っている組織か、モノを流している組織化、サービスを提供している組織か・・・)を概観することができます。これがわからなければ、「ビジネスに貢献するシステム」をイメージすることはできません。

ビジネスモデル、つまり利益を上げる仕組み・設計図の表現方法としてもっとも有名なものは「ビジネスモデルキャンバス」かと思います。

ビジネスモデルキャンバス

ビジネスモデルキャンバスでは、ビジネスモデルを次の9つの要素で表します。すなわち、「CS(顧客セグメント)」「VP(提供価値)」「CH(チャネル)」「CR(顧客との関係)」「R$(収入の流れ)」「KR(主なリソース)」「KA(主な活動)」「KP(パートナー)」「C$(コスト構造)」の9つの要素です。

ビジネスモデルキャンバスの9つの要素

CS 顧客セグメント 事業の存在理由の根幹となる最も重要な要素。事業が関わろうとする顧客グループ。
VP 提供価値 顧客の抱える問題・ニーズを解決・満足するために、製品やサービスを通じて提供する価値。
CH チャネル 顧客セグメントとどのようにコミュニケーションを行い、価値を届けるか。
CR 顧客との関係 事業を営む組織が、顧客グループに対してどのような関係を結ぶか。
R$ 収入の流れ 顧客セグメントから生み出す収入の流れ、収入源。
KR 主なリソース ビジネスモデルの実行に必要な主要なリソース。物的・人的リソース、知的財産などを含む。
KA 主な活動 価値を提供する源泉となるような重要な活動。
KP パートナー 組織の活動にとって重要なパートナー。
C$ コスト構造 事業運営上、特に重要なコスト。
※参考文献「Business Model Genration WORKBOOK/今津美樹」

ビジネスモデルキャンバスのフレームワーク

これらの9つの要素は「ビジネスモデルキャンバス」として、以下のフレームワークで表現されます。

ビジネスモデルキャンバス_雛型

ビジネスモデルキャンバスの例

例えば、街のラーメン屋さん(チェーン店などではなく、頑固なオヤジさんがやっている昔ながらのラーメン屋さんのイメージでお願いします)のビジネスモデルならこうなります。

ビジネスモデルキャンバス_例

これが、チェーン店や、ショッピングモール内のお店だったとしたら内容が異なってきます。客層が違えば、メニューも単価もチャネルも必要なスキルも違ってくることでしょう。

ビジネスモデルキャンバスから何がわかるか

ビジネスモデルキャンバスを描くことで、ビジネスを9つの要素に分けつつも、その全体をシンプルに捉えることができます。こうすることで、これまであまり意識していなかった要素が全体にどのような影響を与えているのか(あるいは与えていないのか)が見えやすくなります。

競合他社のビジネスモデルキャンバスと比較することで、様々なことが見えやすくなります。Amazon(の通販事業)と楽天(の通販事業)は一見同じようなビジネスですが、そのモデルの違いは明白になります。ビジネスデモルが同じでもうまくいっている企業とうまくいっていない企業を比較すれば、その原因がどの辺りにありそうかが見えてきます。

ビジネスモデルキャンバスからはわからないこと

ビジネスモデルキャンバスには競合、市場の概念がありません。顧客セグメントは確かにあるものの、その市場が小さかったり、大きいけど激しい競争が繰り広げられているなどの情報は表現されません。あくまでも自社(と自社の事業)が何をしようとしているかを整理するためのフレームワークです。

参考文献


ビジネスモデルキャンバスの原典。


こちらはビジネスモデルキャンバスをベースとしたサンプル集のような本。
解説が秀逸です。

2.ビジネスシステムについて

次に、ビジネスモデルをどのように具現化しているのかを明らかにします。ビジネスモデルキャンバスではビジネスの概略や狙いが表現されますが、これだけではビジネスの具体的な流れはイメージできません。具体的な流れをイメージするにはビジネスシステム図を用います。バリューチェーン図に似ていますが、バリューチェーンが自社のみを範囲にしているのに対して、ビジネスシステム図ではパートナー(売り手や買い手)についても記載します。

ビジネスシステム図の例

ビジネスシステム図の例を記載します。

ビジネスシステム_例

ビジネスシステムを描くときは、サプライチェーン全体をイメージしながら描くとよいでしょう。

ここまで記載できれば、だいぶ具体的に事業をイメージすることができます。システム構築プロジェクトは、場合によってはビジネスモデルやビジネスシステムの変革を伴うことになります。その場合には全体を俯瞰しておくことが重要ですし、ビジネスモデルやビジネスシステムを変えないとしても、全体と一部を把握しておくことはやはり重要なことです。

全体像が見えていないままだと、手段であるはずのシステムは、いつしか目的になってしまいがちです。手段が目的化してしまうと、いわゆる「使えないシステム」ができあがってしまいます。

3.事業戦略について

事業戦略とは「利益を上げ続けるためのポジショニングと資源配分」と書きましたが、「何をやらないかを決めること」とも言えます。「選択と集中」や「ニッチ戦略」「ランチェスター戦略」のエッセンスは「やらないことを決める」という点に集約されています。

例えば、先にあげた「街のラーメン屋さん」のビジネスモデルでは、テレビCMはありえないでしょうし、女性向けや家庭向けのメニューを開発するのもマッチしないことは明らかです。

世の中には「やらないよりやったほうがいい」なんて言葉がありますが、そんなのは、資源と時間が潤沢にある場合の話です。

システムコンサルティングと事業戦略について

通常、システムコンサルティングは、事業戦略が既に策定されている状態を前提として実施されます。システムについての検討は、事業戦略を十分に理解した上で行わなければなりません。

参考:システム企画構想の概要

とはいえ、現代のビジネスはシステムと切り離して考えることが難しくなっています。ビジネスの方向性と、システムのあるべき姿は同時並行的に検討されることも増えてきました。

そこで、システムの検討からは少し逸脱しますが、事業戦略の策定について、その概要を記載したいと思います。

事業戦略の策定について

事業戦略を機械的に策定する方法はありませんが、一定のセオリーはあります。ここでは、坂本雅明氏の「事業戦略策定ガイドブック」を参考に、そのセオリーをご説明します。

事業戦略策定プロセス

1.事業コンセプトの策定

はじめに「事業コンセプト」を策定します。「事業コンセプト」とは、簡単に言えば「事業の概要」「事業の大枠」であり、「誰に何を売り、どんな価値を提供するか」を明らかにしたものです。ビジネスモデルキャンバスを使って表現してもいいと思います。

「事業コンセプト」を策定するにあたり環境分析は欠かせません。環境分析にはSWOT分析のフレームワークを使います。内部環境(強み、弱み)/外部環境(機会、脅威)を整理し、「機会に乗じて強みを生かす」ことを基本として事業コンセプトを検討します。

尚、「強み」は自社のリソースと他社のリソースとの比較優位によって決定されます。「我が社の強みは品質だ!」と思っていても、競合他社も同等かそれ以上の品質であれば、品質は「強み」にはなり得ません。反対に「当社はマーケティングがいまいちだ・・・」と思っていても、競合他社のマーケティング能力がてんでダメだったら、マーケティング能力は「強み」になり得ます。このように、「強み」は競合他社との比較で決まります。

事業コンセプトは3Cの観点で評価します。すなわち、市場の観点(市場規模は十分か?成長性は十分か?など)、競合の観点(業界内の競争は激しいか?新規参入や代替品の脅威はどうか?売り手や買い手の交渉力はどうか?)、自社の観点(自社のリソースの価値、模倣困難性、希少性、これらのリソースを活かす組織)の観点です。

2.市場戦略の策定

「事業コンセプト」、すなわち「誰に何を売り、どんな価値を提供するか」が決まったら、次に「市場戦略」を策定します。「市場戦略」とは、「競合との戦いの場である市場における顧客へのアプローチ」を明らかにしたものです。

「市場戦略」の基本は、「差別化戦略」「コストリーダーシップ戦略」かのいずれかです。

「コストリーダーシップ戦略」は、体力とローコストオペレーションに自信がある場合にしか選択できません。事実上、中小企業では選択肢に入ってきません。

「差別化戦略」とは、競合他社との差異を生かして競争優位を作り出すことですが、そう簡単ではありません。競争優位を作り出すには「価値要素」を認識する必要があります。「価値要素」を抽出するには、顧客の購買行動や問題解決プロセスに着目します。これにより、価値要素、すなわち顧客が期待することを(例えば、正確かつ迅速な納期回答をして欲しい・・・等)が見えてきます。

抽出した「価値要素」を「価値曲線」の形で競合他社と比較します。この価値曲線を見ながら、どの「価値要素」を高めれば、あるいは低くすれば競争優位性を作り出すことができそうなのか検討します。

3.競争・協調戦略の策定

競争・協調戦略の策定にあたり、「業界俯瞰図」などを用いて業界全体を俯瞰する必要があります。「業界俯瞰図」には、自社、自社の競合・代替品、川上業界、川上業界の競合、川下業界、川下業界の競合、補完的生産者を表します。この「業界俯瞰図」眺めながら、どの企業から利益を奪うのか、あるいはどの企業と協調して利益を増やすのかを考えます。

「競争戦略」とは言葉の通り、競合他社に競り勝つための戦略です。競争戦略の主要なパターンとして、相手企業の交渉力を弱める(例.垂直統合する)、相手企業の動きを封じ込める(例.スイッチングコストを形成する)があります。

「協調戦略」では、競合企業、川上企業、川下企業、補完的生産者と協調し、コスト削減や効率化、新たな価値の創出を図ります。協調戦略を成功させるポイントは、協調する相手企業の戦略を把握する、相手企業にメリット与えることなどがあげられます。

4.利益モデルの策定

戦略、つまり戦い方の検討と同時に「利益モデル」についても検討します。「利益モデル」では、値付け(薄利多売とするか高価格とするか)や、固定費型のビジネスとするか固定費型とするかを検討します。

またマネタイズの方法についても整理しておきます。モノやサービスを売ってその対価を得るというパターンがもっとも一般的ですが、成功報酬型や消耗品で稼ぐパターン(コピー機におけるトナーやT字髭剃りの替え刃など)や、フリーミアム、従量課金型などのパターンも考えられます。

5.ビジネスシステムの構築

最後にビジネスシステムを構築します。上に書いたビジネスシステム図などで整理します。基本的な考え方はコアとなる業務(競争優位の源泉となる業務プロセス)は自社で行い、それ以外の業務については外注化も視野に入れながら検討します。

アップル社が自社工場を持たないのは有名な話です。やろうと思えば自社で製造することも可能なのでしょうが、アップル社は製造を自分たちのコア業務とは考え変えていないようです。アップル社のコア業務は調査研究、製品企画、マーケティングにあります。

4.(参考)代表的なビジネスモデル

カテゴリ モデル名 概要 ポイント 戦略的要素(何を捨てるか) 事例
オーソドックス

受注生産モデル 顧客の求めに応じ、モノ・サービスを生産・販売する。労働集約的。 顧客要求に応える技術力とQCDを守る能力 – (各社各様)
見込生産モデル コストダウン、リードタイム短縮、利益率向上を狙う。在庫とのトレードオフに留意。 精度の高い需要予測 – (各社各様)
仕入販売モデル 安く仕入れて高く売る。あるいは付加価値をつけて売る。 マッチング能力、コーディネート力 – (各社各様)
モノの作り方

SPAモデル 垂直統合し市場対応スピードと利益率の向上を図る。 企画に特化しモノ作りは外注。全量買取だが自前で売り切ることができる。 ユニクロ、GAP、H&M、ZARA、カインズ、ニトリ、JINS
ノンフリル コアサービスに特化し付随サービスは止める。コストダウントと顧客満足度向上を同時に実現。 競合もできる。そこまでに差別化できるか。 コアサービスに付随するサービス サウスウェスト航空、スーパーホテル、IKEA、QBハウス
アンバンドリング バリューチェーンを分解。アンバンドリングして残った機能を外販することも可能(機能外販) どこで分解するか。 どこで分解するか(分解し一部は捨てる) セブン銀行、保険の窓口、星野リゾート、タイムズ24
バンドリング バリューチェーンを統合。TCO(総所有コスト)を削減し顧客を囲い込むなどする。 TCO(総所有コスト)の削減。 分業のコスト効果 コマツ(KOMTRAX)
モノの作り方

多産多死モデル 開発コストはひとつのヒット作で回収する。 ある程度の資金が必要。 完成したプロダクトとサービス Google
オープンイノベーションビジネス 衆知を集めてイノベーションをおこす。 アウトサイドイン。 利益の独占 P&G、グラクソ・スミスクライン
顧客との接点

顧客の再定義 川下に訴求し競争力を高める。顧客の再定義。 インサイドアウト。 (一見)顧客でない者に対する営業活動を行う インテル、ゴア
ダイレクトモデル インターネット等を利用して中抜きし、よいものを低価格に提供する。 商習慣のために既存企業ではできない。 チャネルと需給調整力 デル、NIKEiD
O2Oモデル(オムニチャネルモデル) 古くはクリック&モルタル。ネットで集客しリアル店舗に誘導する。 プラットフォームを活用。 オーマイグラス、ローソン、ライン
マルチサイドプラットフォーム プラットフォームを提供し、マッチングビジネス、ライセンスビジネス、広告ビジネスなどを展開。 利用者が増えるほど価値が高まる(ネットワーク効果)。 (主に)登録料や利用料 任天堂、Google、アップル、ライン、Amazon
収益の仕組み

ジレットモデル 安価な部分で集客し、顧客取込を取り込む。(リアル版) 消耗品部分が代替品にとって変わられないようにする。 本体部分の利益 ジレット、コピー機、ネスプレッソ、任天堂
フリーミアム 安価な部分で集客し、顧客取込を取り込む。(ネット版) 課金するのは3~5%。フリー部分のコストが安くないと成立しない。 全ユーザーへの課金 Dropbox、Skype、Evernote、フリッカー
従量課金モデル 利用した分だけ支払えばよく気に入らなければやめればいいので、購入ハードルが低くなる。 クラウドサービス、オフィスグリコ
冠婚葬祭モデル サービスを受ける人とお金を出す人が異なる。 購入者と利用者のぞれぞれに訴求ポイントを設定する。 冠婚葬祭、トリンプンターナショナル
収益の構造

コンテンツモデル ひとつのコンテンツをいろいろな方法で提供。 収益方法(インカムライン)を増やす。 映画、漫画
ソリューション モノを売るのではなく解決策を売る。 コストベースプライシングから脱却する。 課題把握のための費用 IBM
サービスドミナントロジック モノを売るのではなくサービスを売る。 モノではなくサービスを売る。売り切りでなくストックビジネス化する。 モノに対する利益 クラウドサービス
ロングテール リアル店舗では取扱いをやめるような商品であってもネット上に在庫をもち収益源とする。 ネット上の在庫とレアアイテムとのマッチングを促進する。 売れ筋に注力するという合理性 Amazon、ダイシン百貨店
オペレーション

フランチャイズ/チェーンストアモデル オペレーションを自動化/マニュアル化してサービスレベルを平準化しつつ、共有コストを低減させる。 誰でもできるようにする。 属人性、特徴 マクドナルド、吉野家、ユニクロ、公文、大黒屋
稼働率モデル 固定費が高いビジネスで適用。レベニューマネジメントすることにより稼働率を高める。 変動費はタダみたいなもの/クラウドにもいえる。 全ユーザーへの(市場価格での)課金 飛行機、ホテル、などの装置産業
競合との競争 地域ドミナント 集中出店による競合の出店をブロック。共有コストの削減と地域認知度の向上を高め採算性を向上。 共有コストの低減とマイナスの差別化。 個別最適化(をすて全体最適をとる) セブンイレブン、ローソン